DATE 2008. 8.11 NO .



「――そろそろエブラーナの暮らしにも慣れたか?」

 稽古場にいたのは子供ばかりだった。大人は監督をしているらしきほんの数人で、俺達に気づいて、稽古をやめて全員を集まらせそうな態度をとったが、片手で制してやめさせた。稽古場でまで挨拶を受けていたら、何しにここに来たかわかったものじゃない。

「ついこないだ『いい国だろ?』って言ってたじゃない」

 俺の問いに、リディアはそう言って笑う。それからまた、子供達の様子を楽しそうに眺め始めた。さっきから飽きもせずに、それはもうにこにこと。
 楽しそうだ、本当に。

「いや、だからそれはそれでだな……ミストとも幻界とも全然違うだろ――」
「バロンも違うよ?」

 なのにまた聞いてしまった俺の言葉を遮り、リディアは子供達から視線を外す。

「ダムシアンも、ファブールも、どこもそれぞれ違う。エブラーナはちょっと独特ではあるけど、同じ国なんてあるわけないんだから、ミストとも幻界とも違うのは当たり前でしょ?」

「まぁ……そうだな」

 確かに当たり前だ。それにリディアの答えひとつで俺のエブラーナの民としての誇りが変わるわけでもないのに。

「それにしてもミストはともかく幻界と比べるなんてさ、エッジ気にしすぎだよー。御館様はもっとどーんと構えてなきゃ」

「ちぇっ。悪かったな、神経質な御館様でよ」

 何でこんなに気になったんだか。俺もどうかしてるな……。

「ふふっ……心配しなくてもいい国だよ、エッジもいるしね」

「ん? 今なんつった? あんま聞こえなかったからもう一度頼むわ」

「もうっ、私の第三の故郷はとってもいい国だって言ったの!」

「……なんだ、三番目かよ」

「順番で言っただけじゃないー!」

(――これだけの会話で幸せを感じてるんだから、な……)





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